「昨日まで普通に食べていたのに、今朝から急にご飯を食べない」「でも呼べば来るし、散歩には行きたがる」。元気そうに見えると、どこまで心配すればいいのか迷いますよね。
この記事は、急に食べなくなって、原因が思い当たらないときに、動物病院へいつ連絡するかを決めるためのものです。元気があることは安心材料の一つですが、それだけで緊急性を否定することはできません。受診の目安、家でしてよいこと・してはいけないこと、病院で伝える情報を出典付きで整理します。
【結論】元気があっても、すぐ連絡したほうがいいのはどんなとき?
食べた量より先に、次の所見があるかを確認してください。食欲の低下は多くの病気に共通するサインで、それだけでは原因を絞り込めません。
次の3つの区分は、下に挙げた獣医療の資料と公的資料をもとに、この記事で整理した一般的な目安です。当てはまるものが複数あるときは、いちばん急ぐ区分に合わせてください。 迷う場合も、まず電話で相談してください。区分の中に順位はありません。
直ちに連絡してください(夜間は救急動物病院へ)
| 愛犬の様子 | 補足 |
|---|---|
| 歯ぐきが白い・青紫色、倒れる、けいれん、反応が鈍い、呼吸が苦しそう、ふらつく | 原因を問わず、全身状態が悪いことを示すサインです |
| 吐こうとしても何も出ない、お腹が急に張ってきた、落ち着かず歩き回る、大量のよだれ、前足を前に伸ばして胸を床へ近づける姿勢 | 胃拡張捻転(GDV)を疑います |
| 薬・洗剤・電池・危険な食材などを口にした可能性がある。おもちゃ・布・ひもが見当たらない | 症状がなくても連絡してください。家庭で吐かせようとしないでください |
| 繰り返す嘔吐、血の混じった下痢、血を吐く、黒いタール状の便 | 消化管の出血が疑われることがあります |
| 水を飲めない、飲んでも吐く、飲み込めない、飲食のときにむせる | 脱水と誤嚥の両方が心配な状態です |
| 子犬・超小型犬で、食べないことに加えて震え・脱力・反応の鈍さがある | 年齢と体格を伝えてください |
| 未避妊のメスで、発情から1〜2か月の間に食欲が落ち、飲水量や尿量の増加・陰部からの排出物・お腹の張り・嘔吐のいずれかがある | 子宮蓄膿症を疑います。排出物がないこともあります |
| 糖尿病の治療中に、1食でも食べなかった | 処方した獣医師へ連絡し、インスリンを自己判断で投与しないでください |
その日のうちに電話してください
| 愛犬の様子 | 補足 |
|---|---|
| 完全に食べない状態が12時間を超えた | VCA動物病院の救急外来が示す受診基準です(後述) |
| 急に完全に食べなくなったが12時間はたっておらず、上の区分に当てはまるものはない | 最後に通常量を食べた時刻を伝えて、待ってよいかを確認してください |
| 未避妊のメスで、発情から1〜2か月の間に食欲が落ちた(ほかのサインはない) | 発情の時期を必ず伝えてください |
| 食べたそうにするのに噛めない、口から落とす、片側だけで噛む、口臭やよだれが増えた | 口の痛みが関係している可能性があります。この様子をそのまま伝えてください |
| 持病の治療中である、最近薬やサプリメントを始めた | 待ってよいかは持病と薬で変わります。個別に確認してください |
かかりつけに相談したうえで、家庭で観察してよい場合
上の2つの区分に当てはまるものがなく、水を飲み、排泄も散歩も普段どおりで、食べる量が減っただけのときです。出した量・残した量・時刻を記録し、かかりつけに相談したうえで様子を見てください。記録を続けても食べる量が戻らない、新しい症状が出た場合は、そこで連絡してください。
完全に食べない時間の目安として、VCA動物病院の救急外来は「12時間以上食べていない」場合と、「糖尿病の動物が1食でも拒否した場合」を受診の対象に挙げています。あわせて、食欲が落ちている、食べるのを拒む、食べるときに痛そうにする場合は、速やかに獣医師の評価を受けるべきだとしています(出典: VCA Animal Hospitals「Loss of Appetite(Urgent Care)」)。
ただしこの12時間は、特定の救急外来が示す受診基準であって、犬全体に当てはまる「ここまでは待ってよい」という保証ではありません。 12時間を待つ理由にはならないため、急に完全に食べなくなった時点で電話してください。
「元気はあるのに食べない」は、様子を見ていいですか?
結論から言うと、元気があることは安心材料の一つですが、「緊急ではない」と言い切れる材料にはなりません。
環境省のガイドラインは、犬の体調のチェック項目に「食欲がない」を挙げています。そこには「正常な犬でもフードを1〜2日間食べない個体もいますが、積極的に食べない場合は病気の兆候とも考えられます」と添えられ、「散歩にいきたがらなくなった」も並べられています。全身の状態としては「元気がない、ぐったりしている」「熱がある(正常体温は38.0〜39.0℃)」「嘔吐をくり返す」「咳がひどい」「呼吸の変化」が挙げられています。そのうえで、少しでも異変を感じたら早めに獣医師に診てもらうよう案内しています(出典: 環境省「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」4-2)。「1〜2日食べない犬もいる」は、待ってよい時間の保証ではなく、観察をうながす注意書きです。
さらに、「おとなしくしている」こと自体が手がかりになることがあります。米国動物病院協会(AAHA)の疼痛管理ガイドラインは、犬は痛みを最小にするようにふるまい・姿勢・動きを変えると説明しています。そのうえで、食べないことと、静かでおとなしい様子は、痛みの控えめなサインになりうるとしています。家庭で飼い主が使える急性の痛みの評価ツールは開発されていないため、自宅での急性痛の評価は動物病院チームの指導のもとで行うべきだとも記しています。一方で、飼い主は愛犬の普段の行動を知っており、そこからのズレは痛みの存在を示唆するとされます。短い動画や写真を獣医師が見ることが、痛みについての会話を助けるとも書かれています(出典: American Animal Hospital Association「2022 AAHA Pain Management Guidelines for Dogs and Cats」JAAHA 58(2):55–76, 2022)。
「元気」の中身も一つではありません。VCA動物病院は、食欲不振を「本当の食欲不振」と「偽性の食欲不振(pseudo-anorexia)」に分けています。後者は、食べたい気持ちはあるのに、口に取れない・噛めない・飲み込めないために食べられない状態です。例として挙げられているのは、口や喉の炎症と痛み、進行した歯周病、あごの関節や噛むための筋肉の痛みです。口の中の腫瘍、飲み込みに関わる神経の病気、そして体のどこかの痛みも挙げられています。同院は、どちらであっても食欲と摂取量の低下は真剣に受け止めるべきサインで、命に関わる基礎疾患を示すことがあるとしています。そして、食べ方の変化に気づいたら早めに獣医師を関わらせるよう案内しています(出典: VCA Animal Hospitals「Anorexia in Dogs」)。
尻尾を振って迎えてくれることは、口の中の痛みも、お腹の中で進んでいることも教えてくれません。「元気がある」は、受診しない理由ではなく、電話で伝える情報の一つとして扱ってください。
連絡するまでに、家でしてよいこと・してはいけないこと
原因を家庭で決める必要はありません。することは、安全を確保して、正確に伝える準備をすることだけです。
家でしてよいこと
1. まず電話する。 時間外なら夜間救急へ。いつから食べていないか、完全に食べないのか量が減ったのか、ほかの症状、持病と使っている薬を伝えます。そのうえで「受診までに避けることはあるか」も聞いておくと、家庭で迷わずに済みます。
2. 水を自己判断で取り上げない。 Merck獣医マニュアルは、短期間の嘔吐に対する治療として、24時間の絶食と飲水の制限が行われることがあるとしています。ただし同時に、皮下や静脈から補液を受けていないかぎり水を止めてはならないと明記しています。嘔吐では脱水などが予想され、水を控えるとその影響を悪化させうるためです。あわせて、この時期は水や食べ物が多すぎても少なすぎても害になりうるとして、獣医師の指示に注意深く従うよう求めています(出典: Merck Veterinary Manual「Vomiting in Dogs」)。
つまり、絶食も飲水制限も獣医師の治療方針として行うもので、家庭の自己判断で水を取り上げてよいことにはなりません。一方で「好きなだけ飲ませればよい」でもありません。吐いているなら、与える量と間隔を電話で確認してください。飲んでも吐く場合は上の区分のとおり直ちに連絡します。
3. 口にした可能性のあるものを確保する。 現物・パッケージ・吐いたものを写真に撮り、そのうえで犬や子どもが触れない場所へ移します(素手で触らないでください)。現物を持参すべきか、吐いたものを取っておくべきかは、電話のときに確認してください。Merck獣医マニュアルは、家の中でおもちゃなどが見当たらない場合、その情報は重要なので獣医師に伝えるべきだとしています(出典: Merck Veterinary Manual「Disorders of the Stomach and Intestines in Dogs」)。
4. 短い動画を撮る。 歩き方、呼吸、食べようとする様子は、言葉より伝わります(出典: AAHA 2022年疼痛管理ガイドライン、前掲)。
5. 便の様子を控える。 Merck獣医マニュアルは、消化器の不調が疑われるとき、予約の電話時に便のサンプルを持参すべきか聞いておくとよいとしています(出典: Merck Veterinary Manual「Introduction to Digestive Disorders of Dogs」)。
家でしてはいけないこと
- 食べ物や水を口へ押し込む。 AAHAの栄養ガイドラインは、入院動物の給餌計画を扱う節で、食物への嫌悪と誤嚥(食べ物が誤って気管や肺に入ること)のリスクから、口へのシリンジ給餌はもはや推奨されないとしています(出典: American Animal Hospital Association「2021 AAHA Nutrition and Weight Management Guidelines」JAAHA 57(3):153–174, 2021)。対象は入院動物ですが、家庭でも同じリスクがあります。Merck獣医マニュアルも、強制給餌による食物で誤嚥性肺炎が起こりうるとしています(出典: Merck Veterinary Manual「Pneumonia in Dogs」)。理由の詳しい説明は老犬がご飯を食べない|受診の目安と介護食・流動食の考え方で扱っています。
- 人用の薬を与える。 Merck獣医マニュアルは、犬や猫が人の鎮痛薬にさらされる経路として、偶発的な誤食に加えて善意ではあるが知識のない飼い主が意図的に与える場合を挙げています。イブプロフェンについては、胃の潰瘍や穿孔を起こしうるため犬への使用はもはや推奨されないとし、安全域が狭いとしています。犬でのアセトアミノフェン中毒の症状には、食欲不振・腹痛・嘔吐・元気の低下・震えなどが挙げられています(出典: Merck Veterinary Manual「Toxicoses From Human Analgesics in Animals」)。
- 家庭で吐かせる。 Merck獣医マニュアルは、腐食性の物質については、粘膜がさらにさらされる危険があるためいかなる場合も催吐を試みるべきではないとしています(出典: Merck Veterinary Manual「Toxicoses From Corrosive Agents in Animals」)。何をどれだけ口にしたか分からない状況で、吐かせてよいかを家庭で判断することはできません。
- 食べないからと、次々に別のフードを開ける。 獣医栄養の総説は、急性の病気にかかった動物や入院中の動物では食事を変えないほうがよく、食事の変更は状態が改善してから行うのがよいとしています。体調の悪さと食べ物が結びついて、その食べ物を避けるようになる「食物嫌悪」を防ぐためです。食べるものを探して替えたくなったときは、その前に電話で確認してください(出典: Johnson LN, Freeman LM「Recognizing, describing, and managing reduced food intake in dogs and cats」J Am Vet Med Assoc 2017;251(11):1260–1266)。
- 原因が分からない急な完全拒否を、「お腹が空けば食べる」と放置する。 Merck獣医マニュアルは、若齢の低血糖の原因のひとつとして「超小型犬の一時的な絶食性低血糖」を挙げています(出典: Merck Veterinary Manual「Miscellaneous Liver Diseases in Small Animals」)。また、犬パルボウイルス感染症の項では、以前は嘔吐が治まるまで食事と水を控えるべきだと考えられていたが、現在は早い段階で栄養を与えるほうが、回復の早さ・体重の増加・腸の機能の改善につながることが分かっていると説明されています(出典: Merck「Disorders of the Stomach and Intestines in Dogs」前掲)。ただしこれは、制吐薬や輸液とあわせて行う獣医療のもとでの栄養管理の話で、同項では自分から食べない犬にチューブを置くことがあるとされています。家庭で無理に食べさせる根拠にも、待ってよい根拠にもなりません。
- 食欲を出す薬やサプリメントを自己判断で使う。 使うかどうかは獣医師の判断です。人用の薬や他の動物の残薬は与えないでください。
動物病院へ伝えたい、原因候補の手がかりは?
ここから挙げるのは、家庭で原因を当てるためのチェックリストではありません。 病名は診察と検査で決まります。ここでは、見落としたときの時間的な余裕が小さいものから順に、気づいたらそのまま獣医師へ伝えてほしい手がかりを挙げます。
胃拡張捻転(GDV)
コーネル大学は、GDVを、胃が空気・液体・食物で膨らみ、そのままねじれることで突然起こる命に関わる状態だと説明しています。多く見られる臨床サインとして挙げられているのは、何も出ない空えずき、大量のよだれ、パンティング(口を開けた速い呼吸)、お腹の膨らみ、腹痛です。あわせて、落ち着きのなさやうろうろ歩くこと、蒼白な歯ぐき、脱力や虚脱、**前肢を前に伸ばして胸を床に近づける「祈りのポーズ」**も挙げられています。大型で胸の深い犬に多い一方、どんなサイズ・犬種でも起こりうるとされます。内科的・外科的な緊急処置がなければ致命的だとも記されています(出典: Cornell University College of Veterinary Medicine「Gastric dilatation volvulus (GDV) or “bloat”」)。Merck獣医マニュアルも、GDVでは約25〜30%の犬が死亡するとし、サインが見られたら直ちに受診することが生存率の改善につながるとしています(出典: Merck「Disorders of the Stomach and Intestines in Dogs」前掲)。
中毒・危険物の誤食
薬、洗剤、電池、危険な食材に手が届いた可能性があるなら、症状が出ていなくても、まず連絡してください。中毒は、何を・どれだけ・いつ口にしたかと犬の状態で対応が変わります。家庭で調べてから決めるものではありません。
食材の名前が分かっているなら、電話のあとに伝える情報を整理するのにツールが使えます。結果がどうであれ、連絡を遅らせないでください。
食べてはいけない物チェッカーで、食材の危険度と対応の目安を確認する
異物・消化管の閉塞
Merck獣医マニュアルは、小腸の閉塞のサインは通常、元気の低下・食欲不振・嘔吐であるとしています。加えて、下痢、体重減少、腹痛、お腹の膨らみ、発熱または低体温、脱水、ショックも起こりうるとされます。若い大型犬は異物を飲み込んだことによる閉塞が多く、無治療では体液の喪失によるショックで短時間のうちに死亡することがあるとも記されています(出典: Merck「Disorders of the Stomach and Intestines in Dogs」前掲)。嘔吐がないことだけを理由に、閉塞を否定することはできません。
膵炎
Merck獣医マニュアルは、犬の膵炎では食欲不振・嘔吐・脱力・腹痛・脱水・下痢が重症例で最も多く報告されるサインだとしています。一方で、軽い膵炎ではサインがまったくないか、食欲不振・元気の低下・下痢といった非特異的なサインだけのこともあるとされます。多くの症例で原因は特定できないものの、ゴミや大量の食卓の残り物など、不適切な食べ物を食べることが犬では一般的なリスク因子と考えられている、とも記されています(出典: Merck Veterinary Manual「Pancreatitis and Other Disorders of the Pancreas in Dogs」)。
感染症(子犬・ワクチンが済んでいない犬)
Merck獣医マニュアルは、犬パルボウイルス感染症の初期のサインを元気のなさ・食欲不振・発熱といった非特異的なものだと説明しています。そこから1〜2日のうちに、嘔吐と血の混じった下痢へ進むことがあるとされます。多くは適切な支持療法(脱水や吐き気などを支える治療)で数日のうちに回復する一方、発症から数時間で死亡することもあるとされています(出典: Merck「Disorders of the Stomach and Intestines in Dogs」前掲)。コーネル大学は、この病気が生後6〜20週の子犬に最も多く起こる一方、それより年上の犬が発症することもあるとしています(出典: Cornell University College of Veterinary Medicine, Baker Institute for Animal Health「Canine Parvovirus」)。感染を広げないため、連れて行く前に必ず電話して指示を受けてください。
子宮蓄膿症(避妊していないメス)
コーネル大学は、子宮蓄膿症を命に関わることがある子宮の感染症とし、外科手術と抗菌薬による速やかな治療を要する医学的な緊急事態だとしています。多くの犬で腟からの排出物が見られ、食欲の低下・元気のなさ・嘔吐、ときに飲水量の増加を伴って強い不調を示すとされます(出典: Cornell University College of Veterinary Medicine, Riney Canine Health Center「Pyometra」)。
Merck獣医マニュアルは、子宮蓄膿症を、避妊していない犬でホルモンの変化に伴って起こる子宮の細菌感染だと説明しています。主に5歳を超える犬で報告され、発情の4〜6週間後に起こる傾向があるとされます。サインはさまざまで、元気の低下、食欲不振、飲水量と尿量の増加、嘔吐が挙げられています。子宮頸管が開いていれば血の混じった膿が出ますが、閉じている場合は排出物がなく、大きくなった子宮でお腹が張って見えることがあります。サインは急速に進行してショックや死に至ることがあるとも記されています(出典: Merck Veterinary Manual「Reproductive Disorders of Female Dogs」)。
痛み・全身の病気・薬
前述のとおり、痛みは食欲に直接影響します。VCAは、体のどこかの痛みが食欲を妨げうると説明しています。たとえば背中に痛みがあると、床に置いた食器まで行くこと自体がつらくなることがあります。全身の病気としては、感染症や臓器の機能の不調(糖尿病・腎臓病など)が挙げられています。そのほかに、においが分からないこと、吐き気、消化管の潰瘍、腫瘍、薬の副作用、環境温度の高さ、ストレスや生活の変化も挙げられています(出典: VCA「Anorexia in Dogs」前掲)。
「ワガママだから」「偏食だから」と片づけるのは、いちばん最後です。 獣医師の評価で明らかな医学的原因が見つからず、普段の健康状態も保たれている場合に、はじめて嗜好性や食事環境を検討します。VCAも、犬を偏食と判断する前に、獣医療チームの助けを借りて背景にある病気を除外することが大切な最初の一歩だとしています(出典: VCA Animal Hospitals「My Dog Won’t Eat: Feeding Picky Eaters」2025年3月3日更新)。
動物病院では何を伝え、何を確認しますか?
Merck獣医マニュアルは、完全で正確な経過の説明と診察を組み合わせることで、消化器の問題の原因が分かることが多いとしています。説明に含めるものとして挙げられているのは、年齢、症状、現在の食事、過去の問題、ほかの犬との接触などです(出典: Merck「Introduction to Digestive Disorders of Dogs」前掲)。電話の時点で、次の項目を手元にまとめておいてください。
- 最後に通常量を食べた時刻と、完全に食べないのか量が減っただけなのか
- ほかの症状(嘔吐・下痢の回数と時刻、血が混じるか、咳、震え、排尿と排便)
- 水を飲めているか、飲んで吐いていないか
- 誤食の可能性と、見当たらない物
- 持病・使っている薬とサプリメント・直近のワクチン
- 避妊しているか、していなければ最後の発情の時期
- 普段との違い(散歩、遊び、寝る場所、呼びかけへの反応)
診察では、口とお腹を見る、お腹を腹壁越しや直腸から触って臓器の形や大きさを確かめる、聴診器で腹部の音を聞く、といった確認が行われます(出典: Merck「Introduction to Digestive Disorders of Dogs」前掲)。VCAは、そのうえで血球計算(赤血球や白血球などを数える検査)・血液生化学・電解質(体内のミネラルのバランス)・胸部とお腹のレントゲン・超音波検査などが行われるとしています。所見によっては、内視鏡や生検(組織の一部を採って調べる検査)といった、体への負担が大きい検査に進むこともあるとされます(出典: VCA「Anorexia in Dogs」前掲)。Merckは、短期間の嘔吐がある犬でも、飲み込んだ異物のような命に関わる病気を見つけるためにレントゲンは多くの場合適切だとしています(出典: Merck「Vomiting in Dogs」前掲)。
初回の診察で明らかな異常が見つからなかったら?
診察と検査で異常が見つからないこともあります。ただし、それは原因が完全に否定されたという意味ではありません。 経過を見て再評価が必要になることもあります。そのときは、獣医師に次の3つを確認しておくと、家庭で迷わずに済みます。どんなサインが出たら再受診するか、いつ再評価するか、そして食事について何をしてよいか、です。
そのうえで、状況に合う記事へ進んでください。
- 健康上の問題がないと確認できた犬の食いつき対策は、犬がごはんを食べない・食いつきが悪い|健康な犬に試す順番で、環境・与え方・フードの順に整理しています。
- 夏に食べる量が落ちたときの切り分けは、犬が夏にご飯を食べない|夏バテと決める前に見る受診の目安で扱っています。
- 加齢に伴う食欲の低下と介護食・流動食の考え方は、老犬がご飯を食べない|受診の目安と介護食・流動食の考え方で扱っています。
いずれの場合も、新しい症状が出た、食べない状態が続く、体重が落ちてきたなら、対策を続けずにかかりつけへ連絡してください。
よくある質問
元気があるなら、1食くらい抜いても大丈夫ですか?
これは、獣医師が健康を確認できている犬についての話で、いま急に食べなくなった犬には当てはまりません。 そのうえで、VCAは、健康で、適正な体重を保ち、便が正常で、元気もある犬ならたまに1食食べなくてもよいとし、空腹のほうが食欲が出ることもあるとしています(出典: VCA「Feeding Picky Eaters」前掲)。子犬・超小型犬、持病のある犬、意図せず体重が減っている犬にも当てはまりません。原因が分からない段階で「様子を見てよい根拠」として使わないでください。
おやつやウェットは食べます。それなら病気ではないですか?
食べられる物があるのは良い情報ですが、それだけで病気を否定できません。VCAが「偽性の食欲不振」として挙げているのは、食べたいのに口や体の痛みで食べられない状態です。硬いドライは噛めなくても、やわらかい物なら食べられることがあります(出典: VCA「Anorexia in Dogs」前掲)。何をどれだけ食べたかを記録して、そのまま伝えてください。
何時間まで待てますか?
犬全体に当てはまる待機時間の基準は、今回参照した資料では確認できませんでした。VCAの救急外来は12時間と糖尿病での1食を目安に挙げていますが、これは受診の基準であって安全の保証ではありません(出典: VCA「Loss of Appetite」前掲)。環境省の「1〜2日食べない個体もいる」も、待ってよい時間を示すものではありません(出典: 環境省ガイドライン4-2、前掲)。年齢・体格・持病で余裕は変わります。日数や時間を数えるより、症状と背景を伝えて電話するほうが確実です。
発情の後なので、偽妊娠でしょうか?
自己判断はしないでください。避妊していないメスでは、発情の4〜6週間後に子宮蓄膿症が起こる傾向があり、元気の低下・食欲不振・飲水量と尿量の増加・嘔吐がサインになります。子宮頸管が閉じている場合は目に見える排出物がありません(出典: Merck「Reproductive Disorders of Female Dogs」前掲)。発情の時期を伝えたうえで、獣医師に判断してもらってください。
出典
- VCA Animal Hospitals「Loss of Appetite(Urgent Care)」(12時間以上食べていない場合と糖尿病の動物が1食でも拒否した場合の受診、食べるときに痛そうにする場合の速やかな評価)
- VCA Animal Hospitals「Anorexia in Dogs」(本当の食欲不振と偽性の食欲不振の区別、それぞれの原因、命に関わる基礎疾患のサインとしての位置づけ、行われる検査)
- VCA Animal Hospitals「My Dog Won’t Eat: Feeding Picky Eaters」2025年3月3日更新(偏食と判断する前に背景の病気を除外する、健康な犬がたまに1食食べない場合の扱い)
- American Animal Hospital Association「2022 AAHA Pain Management Guidelines for Dogs and Cats」JAAHA 58(2):55–76, 2022(食べないことと静かな様子が痛みの控えめなサインになりうる、家庭での急性痛の評価は獣医療チームの指導のもとで行う、普段の行動からのズレ、動画や写真の活用)
- American Animal Hospital Association「2021 AAHA Nutrition and Weight Management Guidelines for Dogs and Cats」JAAHA 57(3):153–174, 2021(入院動物の給餌計画の節。食物への嫌悪と誤嚥のリスクから口へのシリンジ給餌は非推奨)
- Merck Veterinary Manual「Disorders of the Stomach and Intestines in Dogs」(胃拡張捻転の致死率と直ちの受診、消化管閉塞のサインと若い大型犬の異物、見当たらない物を獣医師へ伝える、犬パルボウイルス感染症の経過と早期の栄養)
- Merck Veterinary Manual「Pancreatitis and Other Disorders of the Pancreas in Dogs」(重症例と軽症例のサインの違い、ゴミや食卓の残り物というリスク因子)
- Merck Veterinary Manual「Vomiting in Dogs」(短期間の嘔吐の治療、補液なしに水を止めてはならないこと、レントゲンの位置づけ)
- Merck Veterinary Manual「Introduction to Digestive Disorders of Dogs」(消化器疾患の一般的なサイン、経過の説明と診察、便のサンプルの確認)
- Merck Veterinary Manual「Reproductive Disorders of Female Dogs」(子宮蓄膿症の好発年齢と発情からの時期、開放型と閉鎖型のサインの違い、急速な進行)
- Merck Veterinary Manual「Toxicoses From Human Analgesics in Animals」(善意の飼い主による人用鎮痛薬の投与、犬へのイブプロフェンは非推奨、アセトアミノフェン中毒のサイン)
- Merck Veterinary Manual「Toxicoses From Corrosive Agents in Animals」(腐食性物質ではいかなる場合も催吐を試みるべきではない)
- Merck Veterinary Manual「Miscellaneous Liver Diseases in Small Animals」(超小型犬の一時的な絶食性低血糖)
- Merck Veterinary Manual「Pneumonia in Dogs」(強制給餌による食物で誤嚥性肺炎が起こりうる)
- Cornell University College of Veterinary Medicine, Riney Canine Health Center「Pyometra」(命に関わりうる子宮の感染症で、外科手術と抗菌薬による速やかな治療を要する医学的な緊急事態)
- Cornell University College of Veterinary Medicine, Riney Canine Health Center「Gastric dilatation volvulus (GDV) or “bloat”」(GDVの臨床サイン、どのサイズ・犬種でも起こりうること、介入がなければ致命的であること)
- Cornell University College of Veterinary Medicine, Baker Institute for Animal Health「Canine Parvovirus」(生後6〜20週の子犬に多く、それ以上の年齢でも起こりうること、初期症状)
- Johnson LN, Freeman LM「Recognizing, describing, and managing reduced food intake in dogs and cats」J Am Vet Med Assoc 2017;251(11):1260–1266, doi:10.2460/javma.251.11.1260(食物嫌悪を防ぐため、急性の病気の動物では食事を変更せず、状態が改善してから行う)
- 環境省自然環境局「飼い主のためのペットフード・ガイドライン ~犬・猫の健康を守るために~」(2018年12月公表、2021年5月更新)4-2 日頃の体調管理(観察項目、正常体温38.0〜39.0℃、正常な犬でも1〜2日食べない個体はいるが積極的に食べない場合は病気の兆候、異変を感じたら早めに受診)
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としており、獣医師による診断・治療の代替ではありません。示した時間・数値・目安はいずれも一般的なもので、年齢・犬種・体格・持病によって前後します。この記事で原因を特定することはできません。
食欲の低下は多くの病気に共通するサインです。吐こうとしても何も出ない、お腹が急に張る、呼吸や意識の異常、繰り返す嘔吐、血の混じった下痢、けいれん、水を飲めない、歯ぐきの色の変化がある場合は、本記事を読み進める前に、夜間救急を含む動物病院へ直ちに連絡してください。
持病がある、療法食を利用している場合は、食事や投薬を自己判断で変えず、処方した獣医師にご相談ください。サイト全体の方針は免責事項をご確認ください。