地震や大雨のニュースを見て、愛犬の備えが気になっていませんか。犬の防災は、特別な道具をそろえることよりも「何を、どれだけ、どこに」用意しておくかを決める作業が中心です。この記事では、環境省が飼い主向けに公開している資料をもとに、必要な準備をチェックリストにまとめます。備蓄品の優先順位、フードと水の日数、療法食や薬、迷子対策、避難先の確認まで順に見ていきます。災害時は人命と、お住まいの自治体・避難所の指示が最優先です。そのうえで、平時の今できる準備を一つずつ進めていきましょう。
犬の防災、まず何をどの順で備える?
持ち出せる量には限りがあります。環境省は、飼い主向けのガイドラインで備蓄品を3段階の優先順位に整理しています。まずは優先順位1から用意し、余裕ができたら2、3へ広げると迷いにくくなります。
| 優先順位 | 位置づけ | 主な品目 |
|---|---|---|
| 1. 健康や命に関わる物 | 最初に確保する | 療法食・薬/ペットフード・水(少なくとも5日分、できれば7日分以上)/キャリーバッグやケージ/予備の首輪・伸びないリード/ペットシーツ/排泄物の処理用具/食器 |
| 2. 情報 | 荷物にならず効果的 | 飼い主の連絡先と、飼い主以外の緊急連絡先・預け先/愛犬の写真/ワクチン接種状況、既往症、投薬中の薬、検査結果、かかりつけの動物病院 |
| 3. ペット用品 | あると生活が整う | タオル、ブラシ/ウェットタオルや清浄綿/ビニール袋/においのついたお気に入りの用品/ガムテープやマジック |
出典は環境省「災害、あなたとペットは大丈夫?人とペットの災害対策ガイドライン<一般飼い主編>」(平成30年9月発行)の冊子18〜19ページです。優先順位2の「情報」は紙とスマートフォンの両方に持っておくと、はぐれたときや預けるときに役立ちます。
持ち出し袋に入れておく用品
環境省のガイドラインが優先順位1に挙げている品目のうち、平時のうちに買い足しておけるものです。価格や在庫は変動するため、購入前に各販売ページで最新情報をご確認ください。
用品より先に決めておくことがあります。ペットを受け入れる指定避難所はどこか、どこで世話をすることになるかを、お住まいの市区町村にご確認ください。優先順位1の先頭にある療法食と薬は、必要量も手に入らないときの代わりも自己判断では決められません。かかりつけの獣医師にご相談ください。フードと水の必要量は愛犬の体重と製品で変わるため、記事内の計算ツールで1日の目安を出したうえで、その5〜7日分を見積もってください。
物をそろえる前に、自宅の中でできることは?
環境省のガイドラインは、平常時の対策の1番目に「住まいや飼養場所の防災対策」を置いています。揺れた瞬間のけがや逸走を減らす対策で、次の3つが挙げられています(冊子16〜17ページ)。
- 家具やケージの固定、転倒防止、落下防止
- 屋外飼養の場合は、飼養場所の安全確認(外塀やガラス窓の近くを避ける)
- ケージなど、ペットの避難場所(隠れ場所)の確保
あわせて、防災バッグとキャリー、首輪とリードを玄関など持ち出しやすい場所にまとめておくと、避難の判断から出発までが短くなります。
「同行避難」は避難所で一緒の部屋にいられるという意味?
いいえ、違います。ここを取り違えると、当日に困る場面が出てきます。環境省の<一般飼い主編>は「同行避難とは、避難行動を示す言葉であり、避難所でペットを人と同室で飼養管理することを意味するものではありません」と明記しています(冊子6〜7ページ)。
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 同行避難 | 自宅に留まると危険なとき、愛犬を連れて避難先へ向かう「避難行動」そのもの |
| 避難所での飼養方法 | 到着した後、どこでどう世話をするか。環境省は室内同居、飼養者と非飼養者に分かれた室内同居、室内別居(ペット飼養部屋)、敷地内での屋外飼養を例に挙げており、どれになるかは避難所ごとに異なる |
同室で過ごせる避難所がないという意味ではありません。同室になるかどうかが「同行避難」という言葉では決まらない、ということです。
環境省が自治体向けに出した「災害への備えチェックリスト」(令和3年3月発行)も同じ前提に立っています。避難スペースの都合でペットを飼う場所を確保できず、ペットを連れた被災者が滞在できない避難所もあると書かれています(7ページ)。東京都も「避難所において人とペットが同一の空間で居住できることを意味するものではありません」として、それぞれの避難所のルールに従うよう案内しています。
つまり、受け入れの可否や飼養場所は、お住まいの市区町村と避難所ごとに異なります。「ペットの受け入れが可能な指定避難所はどこか」「どこで世話をすることになるか」を、平時のうちに自治体の窓口やウェブサイトで確認しておいてください。
なお、東京都は「どのような状況下においても必ず同行して避難しなければいけないというものではありません」と案内しています。そのうえで「自宅が安全であり、定期的にペットの世話をするために戻れる状況にあるのであれば、避難所に連れて行かないということも選択肢の一つです」としています。ただし、これは危険が去った後の話です。避難指示が出ている間や、経路に危険がある間に世話のため自宅へ戻る判断ではありません。
「避難場所」と「避難所」は役割が違います
もう一つ、混同しやすいのが避難先の種類です。指定緊急避難場所は、津波や洪水などから今すぐ命を守るために一時的に逃げる場所です。指定避難所は、危険が去った後に一定期間を過ごす場所で、ペットの受け入れ方法が問題になるのは主にこちらです。
差し迫った危険があるときは、ペットの受け入れ可否を調べるより先に、命を守る避難を優先してください。受け入れ先や預け先の調整は、安全を確保してからでも間に合います。
フードと水は何日分を備える?
環境省の<一般飼い主編>は、ペットフードと水を「少なくとも5日分[できれば7日分以上]」としています(冊子18ページ、平成30年9月発行時点)。東京都は「最低でも5日分、できれば7日分」、横浜市は「少なくとも5日分以上(できれば7日分以上)」と案内しており、日数の考え方はおおむね共通しています。ただし一般的な目安であり、地域の被害想定や物流の状況で必要量は変わります。なお横浜市は、地域防災拠点にペットフードやケージなどの備蓄はないと明記しています。避難先に用意されている前提で考えないことが大切です。
日数が決まっても、1日あたりの量がわからないと袋数は出せません。愛犬の体重とフードのカロリーから1日の給与量の目安を出し、5〜7倍すると備蓄量を見積もれます。給与量は犬のフード給与量計算ツールで確認できます。水はフードの種類や気温で必要量が変わるため、犬の水分摂取量計算ツールで1日の目安を出し、その日数分を用意すると考えやすくなります。
備蓄は寝かせておくより、普段のフードを少し多めに買い、古い物から使って買い足すローリングストックが続けやすい方法です。フードを急に切り替えるとお腹の調子を崩すことがあるため、備蓄も普段与えている物と同じ銘柄にそろえておくと安心です。銘柄ごとのカロリーや原材料を比べたいときは、ドッグフード図鑑で確認できます。価格や在庫は変動するため、購入前に販売ページで最新の情報をご確認ください。保存方法と賞味期限は、袋に記載されたメーカーの表示に従ってください。
療法食・薬・持病がある愛犬はどう備える?
環境省の優先順位1の先頭に置かれているのが「療法食、薬」です。災害時は動物病院や販売店も被災し、いつもの物がすぐ手に入らない可能性があります。
- 必要量と入手の見通しを平時に相談する: 何日分を家に置けるか、取り寄せに何日かかるかは病気や製品で異なります。かかりつけの獣医師に確認しておきましょう。
- 療法食は自己判断で代用しない: 療法食は獣医師の指示のもとで使う食事です。手に入らないときの代わりも、あらかじめ聞いておくと迷いません。
- 薬は残量と使用期限を定期的に確認する: 月に一度など、確認する日を決めておくと切らしにくくなります。
- 薬の情報を紙にも残す: 薬の名前、量、回数、開始時期を書き出し、検査結果やかかりつけの連絡先と一緒にしておきます。撮影して端末にも残しておくと安心です。
持病がある愛犬ほど、備えの中身は個別に変わります。必要量や保管方法は自己判断で決めず、かかりつけの獣医師へご相談ください。
迷子にさせないための備えは?
はぐれてからでは、できることが限られます。身元がわかる状態を、平時から重ねて用意しておきましょう。
- 鑑札と狂犬病予防注射済票: 生後91日以上の犬の飼い主には、狂犬病予防法により登録、年1回の狂犬病予防注射、鑑札と注射済票の装着が義務づけられています(厚生労働省)。鑑札には登録番号が入っており、迷子になったときに飼い主を特定する手がかりになります。ただし、狂犬病予防法の特例制度に参加している市区町村では、登録済みのマイクロチップが鑑札とみなされます。参加状況は自治体によって異なるため、お住まいの市区町村にご確認ください。
- マイクロチップ: 令和4年6月1日から、販売業者には装着が義務づけられ、一般の飼い主には装着の努力義務があります。装着した場合は、環境大臣への情報登録が義務です。
- 登録名義が自分になっているかの確認: ペットショップやブリーダーから装着済みの犬を迎えた場合、そのままでは前の所有者の情報が登録されています。新しい飼い主への変更登録が必要です。自分で新たに装着した場合は新規登録になります。引越しや電話番号の変更でも届出が必要なので、登録内容が今の連絡先になっているか確かめておきましょう。
- 迷子札: マイクロチップは専用の読み取り機がないと番号を確認できません。その場で誰でも連絡先を読める迷子札を併用しておくと、見つけた人がすぐ連絡できます。
- 写真: 全身と、模様や毛色の特徴がわかる写真を、印刷物とスマートフォンの両方に用意します(優先順位2の「ペットの写真」)。
- 見つからないときの手順: 環境省の資料は、すぐに見つからない場合は自治体へ届け出る流れを示しています。届出先の連絡先も、あらかじめ控えておきましょう。
避難所生活に備えるしつけと健康管理は?
避難所では、動物が苦手な人やアレルギーがある人も一緒に過ごします。環境省は、平常時に飼い主が行う対策として、犬について次の項目を挙げています(冊子16〜17ページ)。
- 「待て」「おいで」「お座り」「伏せ」などの基本的なしつけをする
- ケージなどの中に入ることを嫌がらないように、日頃から慣らしておく
- 不必要に吠えないようにしつける
- 人や他の動物を怖がったり攻撃的にならないように慣らしておく
- 決められた場所で排泄ができるようにする
- 狂犬病予防接種(義務)に加え各種ワクチンを接種する
- 犬フィラリアやノミ・ダニなどの寄生虫を予防、駆除する
- シャンプーやトリミングにより身体を清潔に保つ
同じ資料には、ワクチン接種や寄生虫の駆除が預け先の条件になっていて、預けるまでに時間がかかった例も紹介されています。健康管理は愛犬のためであると同時に、避難生活の選択肢を広げる備えでもあります。
避難先と預け先は、どこまで確認しておく?
環境省の<一般飼い主編>は、避難訓練で確認する項目を挙げています(冊子20〜21ページ)。次の内容は、地図を見るだけでなく一度実際に歩いてみると気づくことが多くあります。
- ハザードマップでの危険箇所の把握
- ペットの受け入れが可能な指定避難所の把握
- 指定緊急避難場所・指定避難所までの所要時間と、危険な場所の把握
- 通行できないときの迂回路の確認
- 慣れない場所での愛犬の反応の把握と、動物が苦手な人への配慮
- 避難所が被災している場合や、津波などで避難所が危険な場合の二次避難先の想定
- 事情により避難所へペットを同行できない場合の、避難先や預け先の想定
家族や地域での話し合いも勧められています。連絡方法と集合場所、避難時の役割分担、留守中に愛犬だけが自宅にいた場合の対処、緊急時の預け先の確保などです。預け先は、指定避難所以外に親戚や友人など複数を探しておくことが望ましいとされています。施設に預ける場合は、条件・期間・費用を確認し、後でトラブルにならないよう覚書などを交わしておきましょう。
防災体験イベント: 2026年9月13日(日)、神奈川県藤沢市の神台公園で、愛犬と防災を体験しながら学べる「湘南DOG BOUSAI FESTA」が開催予定です。開催時間・犬の参加条件を確認する。参加前に公式サイトで最新情報を確認してください。
準備でつまずきやすいところ
- 備蓄したまま期限が切れる: 買って置くだけだと気づきにくくなります。普段使いの在庫と一緒に回すローリングストックにすると、確認の手間が減ります。
- 防災バッグが重すぎて持てない: 愛犬を連れながら運べる重さかどうかは、実際に背負って歩かないとわかりません。優先順位1から詰め、持てる範囲に収めます。
- キャリーが「病院に行く箱」になっている: 出すたびに嫌がる状態だと、避難のときに時間がかかります。普段から居場所の一つにしておきましょう。
- 避難所のルールを当日に知る: 受け入れの可否や飼養場所は自治体・避難所ごとに違います。事前の確認が、当日の判断を軽くします。
- 家族の誰も薬の名前を知らない: 世話をする人が変わっても困らないよう、薬や通院の情報は共有しておきます。
よくある質問
避難所はどこでも犬を受け入れてくれますか?
避難所によって異なります。環境省の自治体向けチェックリストにも、スペースの都合でペットを連れた被災者が滞在できない避難所があると書かれています。受け入れ可能な避難所の場所と飼養方法を、お住まいの市区町村へ事前に確認してください。
備蓄は5日分と7日分のどちらに合わせればいいですか?
5日分が最低限の目安、7日分以上がより安心という位置づけです。保管場所や愛犬の体格に応じて、無理のない範囲で多めを目指すとよいでしょう。
愛犬を家に残して避難してもよいですか?
災害時は何よりも人命が優先され、飼い主自身の安全確保が大前提です。環境省の資料でも、東日本大震災でペットを避難させるために自宅へ戻り、津波に巻き込まれた例が挙げられています。やむを得ず残す状況も想定し、家族や知人に保護を頼む手順、室内で安全な場所を決めておくことが備えになります。
車の中で過ごしても大丈夫ですか?
やむを得ない場合の選択肢の一つですが、注意点が多い方法です。環境省の資料は、車内の温度に常に注意し、十分な飲み水を用意すること、長時間車を離れる場合は安全な飼養場所へ移すこと、エコノミークラス症候群に注意することを挙げています。内閣府の手引きも、夏季の高温・熱中症、冬季の低温、積雪でマフラーが埋まることによる一酸化炭素中毒への注意を示しています。駐車する場所自体が浸水や土砂災害の危険にないかも確認してください。暑い時期は犬の熱中症の症状と対策もあわせてご確認ください。
マイクロチップを入れていれば迷子札は不要ですか?
役割が異なるため、併用をおすすめします。マイクロチップは読み取り機がないと番号を確認できない一方、迷子札は見つけた人がその場で連絡先を読めます。犬の場合は、鑑札と狂犬病予防注射済票の装着が法律上の義務である点にもご注意ください。
出典
- 環境省「災害、あなたとペットは大丈夫?人とペットの災害対策ガイドライン<一般飼い主編>」(平成30年9月発行。備蓄の優先順位と日数、同行避難、しつけ・健康管理、避難訓練)
- 環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」(平成30年3月発行。自治体向けの本編)
- 環境省「人とペットの災害対策ガイドライン 災害への備えチェックリスト」(令和3年3月発行。避難所の受け入れ体制)
- 環境省「「人とペットの災害対策ガイドライン」の改訂案に係る意見の募集(パブリック・コメント)について」(令和8年6月8日報道発表)
- 環境省「犬と猫のマイクロチップ情報登録について」「同Q&A」(令和4年6月1日開始。新規登録と変更登録)
- 厚生労働省「犬の鑑札、注射済票について」「マイクロチップの装着等の義務化に係る狂犬病予防法の特例に関する対応について」(登録・注射・装着の義務と特例制度)
- 内閣府(防災担当)「在宅・車中泊避難者等の支援の手引き」(令和6年6月。車中泊避難の熱中症・一酸化炭素中毒・エコノミークラス症候群)
- 東京都保健医療局「『同行避難』するために・・・日ごろからの備えが大切です」(自治体例)
- 横浜市「災害時のペット対策(震災)」(自治体例)
本記事は一般的な情報提供を目的としており、獣医師による診断・治療の代替ではありません。療法食や薬の備蓄量、持病がある愛犬の備えは、かかりつけの獣医師へご相談ください。災害時は人命と、お住まいの自治体・避難所の指示が最優先です。避難所の受け入れ方法や飼養場所は自治体・避難所ごとに異なるため、必ずお住まいの市区町村の最新情報をご確認ください。記載した数値・制度は、各出典に示された発行時点の内容です。環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」は令和8年6月に改訂案のパブリックコメントが実施されており、改訂後は内容が変わる可能性があります。サイト全体の方針は免責事項をご確認ください。